爬虫類の脱皮の原理を詳しく解説

爬虫類豆知識

爬虫類の脱皮の原理を詳しく解説

 はじめに

 爬虫類はとても不思議な生き物です。その中でも脱皮という行動が特徴的で、古い皮膚がボロボロ落ちるのではありません。今回はそんな脱皮を詳しく解説していこうと思います。

脱皮をする意味

 爬虫類は脱皮は新陳代謝の一つであり、成長、新しい表皮を形成する為の大切なプロセスでこの脱皮頻度で成長速度をはかることができます。

脱皮プロセス

 爬虫類は(人間も)外から角質層、顆粒層、棘状層、基底層の4つの層からできており、その下に真皮があります。爬虫類の脱皮は基底層で生成された新しい細胞が角質層と顆粒層の間まで行きます。つまり、古い角質層の下で新しい角質層を形成します。ここまでの、新しい角質層を形成するまでを「脱皮期間」または「脱皮準備」と言い、その古い角質を剥離することを脱皮と言います。生物学的に正式には以下で示す脱皮液の充満が完成するまでを「脱皮前期」それ以降の古い表皮の剥離を含む動作を「脱皮後期」と言います。

1,脱皮を行う条件が揃う

 十分な栄養を保持し、十分な水分を保持している場合、体内でプロエキダイソン前駆体が分泌され、脱皮の準備を始めます。このプロエキダイソン前駆体はのちに出てくる脱皮液となります。

2,新しい表層を形成する

 表皮の最下層である基底層で新たな角質層になる細胞が形成され、基底層から、徐々に上層に移動して古い角質層の下まで到達すると、新たな角質層が形成されます。その形成段階で、新しい角質層が形成された段階で古い角質層が浮いた状態になり、新旧角質層の間に空間が発生します。ただし新旧の角質間は完全に分離されているわけではない為下で示す脱皮液の中のタンパク質分解酵素により接着剤の役割をしている物を分解し、新旧の角質層の分離を促します。

3,脱皮液(エクダイシスフルード)

 古い角質と新しい角質層の間の空間に脱皮液(エクダイシスフルード)を充満させます。この脱皮液はリンパ液、タンパク質分解酵素、カルシウムを含んだ液体です。この脱皮液が充満されていくと、見た目上、成体は白くなっていきます。これは、脱皮液によりさらに新旧の角質層が分離され光の反射方法が変わっている為白く見えます。またこの脱皮液は古い角質層を容易にはがせるような潤滑液の役割も果たします。脱皮液が充満して新旧の角質層が完全分離を行うと脱皮前期は終了です。

4、古い角質層の剥離

 脱皮液の充満が完了し、新しい角質層の形成が完成すると脱皮ホルモンの分泌量の変化が影響して、角質層剥離行動に移ります。頭を何かに押し付け頭の皮をはがします。その後数分間の間に頭から徐々に胴体手足、尻尾の順で脱皮を行います。また、この工程で四つ足の生態を持つ爬虫類、両生類は、脱皮の皮を自ら食べながら脱皮を行います。脱皮皮を食べないといけないというわけではなく、はがす為に口で食べながら、引っ張って剝がしています。その為、脱皮皮がケージ内に落ちていても問題はなく、多頭飼いしていても他の生体の脱皮皮を食べようとはしません。

脱皮に要する期間

 脱皮に要する期間は、飼育している環境により大きく異なりますが、一般的には1週間~2週間です。トカゲ類の場合は種類により数日で終わるものもいれば、2週間以上かけて脱皮する物もいて見極めは困難ですが、共通して同じことは、剥離する前は脱皮部位が白くなるという事です。蛇類は1週間~2週間であり、他の種類と異なり体が十分白くなってもすぐに脱皮を行うわけではありません。

脱皮時に変わる行動

 脱皮準備時から脱皮まで一貫して普段とは異なる行動を行う場合が多いです。種類にも大きく異なりますが、個別に変わるという事はありません。

 多くの爬虫類で起こる現象としては、拒食があります。よく、脱皮時の拒食は個性でその子その子で変わるという方がいますが、個性ではなく遺伝子による影響が大きくあります。また、ベビーからヤングに変わる時、ヤングからアダルトになる時など、この拒食期間が延長される場合があります。

拒食と行動減少

 脱皮時は先に説明した通り拒食することが有名です。これは生理現象であり拒食しなければならない理由があります。まず、脱皮という行為自体が、生体に対して高ストレスであり、本来は他の生物に邪魔されない環境で脱皮時期を迎え脱皮が終わるまで動かないことが一般的に知られています。そのような環境が必要なときに餌を出されるとさらにストレスを受けてしまうと言われています。これらのストレスの原因の一つとして、視力低下も大きくかかわっているのではないかともいわれています。

ただし、脱皮時だから餌をあげないという考えは危険で、マウスやラットを食べる種類は自ら拒食を行いますが、トカゲ類などの消化機能が進化している種類の多くは、そうとは限りません。蛇類でなければ、食べなくても用意してあげる必要がある為、その種類の脱皮時の行動を調べましょう。

脱皮時は餌をあげない方が良い

 肉食などの、特定の爬虫類は脱皮に体のエネルギーの8割以上を脱皮をする為に使うと言われています。ただしこれらは普段から食べている餌により大きく異なり、脱皮に優先的にエネルギーを消費することから、消化に普段より時間がかかる為、脱皮時に食べなくなるというよりも、脱皮時は餌をあげない方が良いと考える方が論理的です。

 先に説明した通り、トカゲなどは、脱皮期間であっても餌を準備する必要は十分あります。その見分け方としては、その生物が栄養を貯蔵できるのかどうかが重要で、餌を毎日や週2回以上あげないといけないと言われている爬虫類は栄養の貯蔵が多くできない個体で、脱皮期間の1週間~2週間、何も食べないと死んでしまう可能性があります。逆に、レオパなど、尻尾に栄養を貯蔵できたり、蛇の様に体に脂肪などとして栄養を多く貯蔵できる爬虫類は2週間以上餌を食べなくても大丈夫と言われている個体は、脱皮が終わるまで餌を与えなくても大丈夫です。ですが、そのように餌の頻度が高い個体は脱皮期間自体3日で終わったり早く脱皮が終わる生体が多く、飼い主も脱皮しているのを見たことがないなんてことも多いです。

おまけ

脱皮皮に色がついている

 脱皮の皮に色がついている事があります。これは表皮の下の真皮層にあるメラノサイト(黒色色素胞)から生成されるメラニンが、角質層、顆粒層に着色することが原因です。その為、脱皮後は体の黒い部分が濃い事が多いです。逆に黒色以外は、メラニンのような動きをしない為、脱皮皮に色が乗る事はほとんどありません。

ハイポメラニステックは脱皮が特殊

 ハイポメラニステックと言われる変異遺伝子を表現として保持している爬虫類の場合、脱皮皮が他の個体と比べて分厚いと言われています。ハイポメラニステックという遺伝子は、黒が薄く見える個体の事でこれらは、角質層が他の生体よりも分厚い為、メラニンの着色をしても薄く見えるのが原因です。その為、メラニンの量が少ないというわけではなく、分厚いから薄く見えているだけなので、病気などではありません。また、勘違いしやすいのが、脱皮後は黒が濃いいという考えがありますが、脱皮の際はすでに新しい角質層ができている為、黒が濃く見えることはありません。ただし、黄色い部位や赤い部位は新しい角質層が綺麗である為、脱皮前より、よりきれいに見えます。また、脱皮準備期間多くの生体は体が白く靄がかりますが、このハイポメラニステックの遺伝子を保持している場合、さらに白く見えます。

ハイポメラニステックの呼び名の違い

ハイポメラニステックは種類により呼び方が異なります。また多くの場合略されていることがあります。

ヒョウモントカゲモドキ = ゴースト(単一の場合) =ハイポ(複数遺伝子の場合(コンボの場合))

カメレオン類 = ハイポメラニステック

ボールパイソン = ゴースト(単一でもコンボでも) = ファイア系統(BEL) = クラウン(連鎖遺伝共顕性遺伝子として保持)

蛇類は複数の変異遺伝子が1セットとなりどちらかが遺伝する時連なってセットの遺伝子が遺伝します(連鎖遺伝)。その為柄が特徴的な変異遺伝子とハイポの遺伝子がセットになっていることが多いです。