爬虫類の遺伝について
はじめに
爬虫類を飼育していると、繁殖させてみたいと思うことがあると思います。でも、うちの子とこの子でどんな子が産まれるんだろう?と思ったときに皆さんはどうしますか?今回は遺伝に関する話を詳しく説明していこうと思います。記事は長い為、目次をご活用ください。
結論
結論から言うと、ボールパイソンをはじめとする蛇類、また、多くのモルフが存在する種類や、産地や極少量のモルフが存在する場合は、親の持っている遺伝子から子供の遺伝子を「組み合わせ表」を作り、それのどれに当てはまっているかで販売時の名前「呼称」が決まります。これを「表現型による命名」です。それに対し、レオパードゲッコーやクレステッドゲッコーなどほとんどの爬虫類は親の遺伝子は対して考慮せず、生まれてきた子供の見た目で、命名します。これを「形質による命名」と言われています。この形質による命名では、特定の既存のモルフ名を付ける際にはそのモルフの命名を満たす条件をクリアすれば命名できます。
ボールパイソンの場合:表現型による命名
オス:パステル
メス:バナナ
組み合わせによる起こり得るすべての事象:パステル、パステルバナナ、バナナ、ノーマル
この起こりえるすべての事象から出された結果のどれに当てはまるか、子供を見て判断します。
レオパの場合:形質による命名
オス:マックスノー
メス:マックスノー
生まれてくる子供は:親と同じ見た目、またはスーパーマックスノーか、または、ノーマル
オス:マックスノー
メス:スーパーマックスノー
生まれてくる子供はマックスノーかスーパーマックスノー。
レオパのモルフ名にある「スーパー」はボールパイソンとは異なり共顕性遺伝(旧:共優性遺伝)を示すものではなく、「すごい」という意味になります。これらは多因性形質のモルフであり、複数の遺伝子の一塊をスノーと呼んでいる為です。また、不完全優性形質であり、黒目、背中に黄色がない個体がスーパーマックスノーとなります。
レオパは決まりきったモルフ名(デザイナーモルフ名)が約100個あり、生まれた子供が結果的にどれに似ているのかで名前を決めるのが一般的です。その決まっているモルフ名に当てはまらない場合、新しいブランドとして登録されたりします。
クレステットゲッコーの場合:成長前:形質による暫定的命名
レオパの一部の複雑な親モルフから生まれた特殊な個体の場合、以下のクレスと同様の命名方法を行います。
クレスはレオパ同様、多因性形質のカラー+パターンでの命名になりますが、ベビーからヤングまでは、名前が決まっていない場合が多いです。例えば「カラー」「パターン」はまだ命名されていない状態で、そこからカラー系の何なのか、パターン系の何なのか、が決まります。また、レオパにも言えますが、ほとんどのモルフが不完全優性形質の為、特定の部位が特殊な場合、先に命名されます。例えばベビーの段階でしっぽの付け根付近から先まで真っ白だと、リリーホワイトと命名されます。それ以外のしっぽのすべてではないが、しっぽの裏以外が白で腹側面が発色していれば、「クリーム系」と名付けられて、手足が発色していれば、「クリーム系」と言う名前から、「ハーレークイン」となります。逆に手足の発色がない場合、「フレイム(ファイア)」となります。逆に側面に発色なし、しっぽの一部のみ白であれば、色素細胞がうまく作用されなかった個体であり名前はありません。よくあるのが、「リリーホワイトから生まれた」といううたい文句で販売されているときがありますが、ベビーの場合、リリーホワイトの形質が後から出てくる場合がありますが、出ない場合もあります。リリーホワイトは作者らによって「顕性/共顕性の形質」(顕性形質は顕性遺伝とは違うので注意)とされています。つまり、他のレッドやダルメシアンなどの遺伝子を持つ個体と掛け合わした場合、リリーホワイトとレッドまたはダルメシアンの特徴をそれぞれ発現させる遺伝子形質だと特定しました。しかし、一部では顕性を示す為他のモルフの出現を妨げます。またこの遺伝子の遺伝パターンは作者らによると「単一で遺伝するモルフ」。つまり、「共顕性遺伝(旧:共優性遺伝)」もしくは「顕性遺伝」のどちらかであるということですが、リリーホワイトとリリーホワイトを交配した場合、死に籠りを起こす致死遺伝であることが作者らにより発表されています。
少し大事な知識
爬虫類の遺伝子をあらわす際に以下の言葉が使われます。すこし頭に入れておくと面白くなります。
- パターンミューテーション
これは、遺伝子が個体の体の模様を主に影響を与える遺伝子だという事です。 - カラーミューテーション
これは、遺伝子が個体の体の色を主に影響を与えると遺伝子だという事です。 - スーパー体
これは同じ共優性遺伝子が同じ遺伝子座にそれぞれ一つずつ、計二つ存在している場合の呼称ですが、現在はボールパイソンなどの蛇類が主で、他の爬虫類ではこのスーパーは「すごい」という意味で使います。理由としてはわかりやすく、スーパー体は同じ遺伝子座の遺伝子がそれぞれ同じ遺伝子である場合のみ使用する爬虫類界隈特有の呼び方です。蛇以外のモルフの場合、多因性形質であり、不完全優性形質である為、同一遺伝子座という条件に合わない場合が多いです。 - ハイブリッド
モルフの交配ではなく、同一種または姉妹グループの異種での交配によって生まれた個体です。例えば、スマトラブラッドパイソンとマラヤンブラットパイソンの間で生まれた子供をハイブリッドブラッドパイソンと言ったり、オオアナコンダと、黄色アナコンダの交配で生まれる。ハイブリッドアナコンダがいます。オオアナコンダが購入できない現在の法律をグレーですが回避するために作られたと言われています。オオアナコンダの血の濃さを%で表記して販売されています。オオアナコンダほど巨大にはならないようです。 - 対立遺伝(アレル)
日本では対立遺伝は本来の意味とは違う意味で使われています。「同じ遺伝子座」という意味で使われていますが、本来の意味は、同じ遺伝子座にそれぞれ違う遺伝子が入る事を示します。当記事では後者の意味で言葉を使用します。 - 同一の遺伝子座
対立遺伝と似ていますが、この場合、同じ遺伝子が入る場合もあります。爬虫類では、同一の遺伝子座に異なる遺伝子が入り全く違う見た目が表現される事を「コンプレックス」と言われています。対して同じ遺伝子座に入る同じ遺伝子の事を「同一の遺伝子」と言います。 - 同一の遺伝子
同一の遺伝子座、または、アレルと異なり、同一の遺伝子座に入る、同一の遺伝子を指します。両親がピンクの花を咲かせる劣勢ホモの場合、生まれてくる子供はそれぞれ両親が同じ遺伝子を保持している為、子供の同じ遺伝子座に入り、親同様の表現となります。 - ホモ結合・ヘテロ結合
ホモ結合は、同一の遺伝座に同一の潜性遺伝子(旧:劣性)が2個そろっており、表現として現れた場合、または、同一の遺伝子座に同一の共顕性遺伝子(旧:優性)がそろっている場合の事を示します。対して、ヘテロ結合は、同じ遺伝子座の対にある遺伝子が、それぞれ異なっている場合に使用します。日本では、ヘテロは潜性遺伝子を一つしか保持しておらず表現として現れていないときに「ヘテロ〇〇」として命名で使われています。またホモ結合、ヘテロ結合と言う言葉は、同一遺伝子座という言葉の別の言い方でもあります。 - 連鎖遺伝
父親のAと言う特徴が子供に引き継がれる時、父親のBという特徴も必ず一緒に引き継がれ、逆にAを引き継がなかった場合、Bも引き継がない。これらの複数の遺伝子同士が一つの集団になっており集団で継承することを、連鎖遺伝と言います。これらは特徴同士の遺伝子座の距離が近いと言われています。ボールパイソンのモルフのほとんどがこの連鎖遺伝です。遺伝子固定という突然現れた特徴を遺伝子として固定させるときに連鎖遺伝が形成されます。例えば、クラウンという劣性遺伝子の場合、クラウンは「パターンミューテーション 」と、体全体の色を薄くする「ハイポメラニステック」、体の色を変える「カラーミューテーション」を保持しています。しかし、パターンミューテーションとカラーミューテーションはそれぞれ劣勢形質を持っており、クラウンのヘテロ結合では表現として現れません。しかし、ハイポメラニステックに共顕性遺伝子であり、クラウンがヘテロ結合でも、個体の表現としてハイポメラニステックが出ますが、クラウンがホモ結合になれば、よりハイポメラニステックの特徴が強くなります。また、ボールパイソンのスパイダーという共顕性遺伝子も同様で、スパイダーは、パターンミューテーションの特徴と神経障害という特徴を持ち合わせています。ただし、必ず複数の特徴が同時に引き継がれるわけではなく、極稀に分離します。ボールパイソンの連鎖の分裂では、ウォマというモルフから神経障害を分離させたモルフを「ヒドゥンジンウォマ」と言います。
以下は上記の用語を詳しく解説
以下は上記の用語を詳しく解説しています。ただし、内容は高校生物の発展である為、基礎的な面は一部排除して説明しています。
遺伝の決まり事:メンデルの法則
遺伝には決まりがあります。それが有名なメンデルの法則という物になります。現在までメンデルの法則は正しい理論であるとされており変わっていない為当記事では解説しません。小学校や中学校でも豆のしわを例にして習ったはずです。交配する時には、親の形質をそれぞれ半分づつランダムで子供が引き継ぐという事を難しく言っているだけです。
日本医学会による言葉の言い換え
日本遺伝学会が優性と言う言葉を「顕性けんせい」、劣性を「潜性せんせい」と言い換えろとのことなので、以後は、旧呼称「優性」を「顕性」、旧呼称「劣勢」を「潜性」と書きます。また、旧呼称「突然変異」は「変異」、旧呼称「〇〇異常」を「〇〇多様性」と書きます。
爬虫類で大事な言葉:表現パターン
爬虫類ではよく、〇〇形質とか、〇〇遺伝と言う言葉が出ますが、全く違う言葉です。爬虫類においてそれぞれの遺伝子に、以下でしめす、〇〇遺伝とかがついている場合と。〇〇形質とついている場合があるので注意が必要です。おもにボールパイソンなど、沢山の遺伝子がある場合と、変異遺伝子が少ない場合は〇〇遺伝といい、レオパなど、対して変異遺伝子が多くない種類は〇〇形質と言われることがあります。これらの違いを詳しく説明します。
形質と遺伝の違い
〇〇遺伝とは、遺伝のパターンであり、〇〇形質は、異なる対立遺伝子でのそれぞれの遺伝子の表現パターンです。
以下は爬虫類でよく使われる、遺伝のパターンです。本来はより多くの物がありますが、爬虫類では以下の用語がよく使われています。
顕性(旧:優性)遺伝
一つの遺伝子Aが遺伝した場合、その遺伝子を受け取った子供はAの特徴が表現として現れる。
潜性(旧:劣勢)遺伝
二つの同一遺伝子を保持している場合(ホモ結合)、表現として現れて、一つしかない場合(ヘテロ結合)表現として現れない。
共顕性遺伝(旧:共優性遺伝)
二つの同一の遺伝子が等しく顕性を示し、両方の遺伝子がホモ結合した場合、ヘテロ結合と比べてより表現が強くなる遺伝。
上記は遺伝子の表現パターンで、他の生物においても利用されます。これらは同一の遺伝子座同士での話であり、どのように遺伝する遺伝子なのかを表す言葉です。簡単に言えば、顕性遺伝は親が一つ持っていればいい。潜性遺伝は両親がそれぞれ1個か2個持っていないと子供に表現として出ない。共顕性遺伝は両親どちらか片方が1個持っていればいい場それぞれ1個づつあり子供が2個継承すると、1個より2個の方が表現として強くでる。です。
ちなみに:不完全優勢遺伝
不完全優勢遺伝は最後に遺伝と書いてありますが、上記とは異なるカテゴリーです。今までの3種は親から遺伝したら子供がどのような表現をするかというパターンを示す言葉でしたが、不完全優遺伝は、同一の遺伝子座に異なる遺伝子が入った場合、それぞれの遺伝子に優劣がなく両方とも表現として現れるという事です。対して不完全優性形質の場合、同一の遺伝子座ではなく、複数の遺伝子座同士での優劣の話であり。爬虫類のほとんどの遺伝子にいえる事です。
勘違いしやすい遺伝形質:遺伝子対の異なる形質表現
以下は、形質の事であり、上記の遺伝パターンとは異なります。同一の遺伝子座での話ではなく、複数の遺伝子座での優劣(表現を出す強さ)の話です。同一の遺伝子座でも形質と言う事はありますが、それはホモ結合することが証明されてた対立遺伝子での話です。そのような遺伝子の研究はない為、同一の遺伝子座に入ったかどうかの証明は共顕性遺伝か潜性遺伝、コンプレックスではない限りわかりません。
以下は遺伝の形質の紹介です。
顕性形質(完全顕性形質)
一方の遺伝子が顕性で、もう一方が潜性の場合、顕性形質が現れます。例えば、遺伝子ABCDとあり、優劣がA>B>C>Dとなっている場合、Aはどの遺伝子と組み合わせになってもAのみ表現され他BCDは表現として現れません。つまり「AはBCDに対して顕性形質である。」「BはCDに対して顕性形質だが、Aに対しては潜性形質であり、Aを持っている場合表現として出ない」と言う事になります。顕性形質と完全顕性形質は全く同じ意味で、顕性形質は単純に完全顕性形質の略語です。
潜性形質
両方の遺伝子が潜性の場合、潜性形質が現れます。逆に片方が潜性ではなく顕性の場合、表現として現れません。顕性形質で説明した例を参考にしてください。また、潜性形質は潜性遺伝とは異なり、顕性遺伝、潜性遺伝、共優性遺伝のパターンそれぞれにも潜性形質は存在します。その為、潜性形質=潜性遺伝ではないと覚えておく必要があります。ほとんどの遺伝子の場合、潜性遺伝の遺伝子はホモの場合、多くの遺伝子に対して顕性形質か不完全形質を示します。またヘテロの場合はいかなる場合でも潜性形質を示します。
不完全顕性形質
両方の遺伝子が潜性でも顕性でもない場合、不完全顕性形質が現れます。自分がいる遺伝子座ではない遺伝子座の遺伝子と共存して、どちらの表現も合わさった状態で表現されます。例えばABCDと言う遺伝子があり。「A>B=C」の順列がついている場合、「BはCと不完全優勢(優劣がない)である為、BCが合わさった見た目が生まれる」「AはBCに対して顕性である為、Aがある場合BCをいくつか保持していても表現としてはAしか現れない」となります。潜性形質に対しては顕性を示しすため、顕性形質の一面も持っています。
多因性形質
これらの特徴を持った形質の遺伝子の組あわせを多因性形質と言います。複数の遺伝子を組み合わせて現れるモルフ名に対してこの多因性形質(ポリジェネリック)と書かれることがあります。それらのモルフの多くは、特定のカラーミューテーションと特定のパターンミューテーションの組み合わせでできていますよと言うのが主で一部では、特定のパターンミューテーションとそれとは違うと特定のパターンミューテーションの組み合わせでも多因性形質と言います。カラーもしかりです。
遺伝と形質の違い
〇〇遺伝という物は、同一の遺伝子座での話です。〇〇形質とは対立遺伝子の話です。
爬虫類で例えると
ボールパイソンの遺伝を例にとりましょう。
ピンストライプ(顕性遺伝)+バナナ(共顕性遺伝)=バナナピンストライプ
この場合、ピンストライプとバナナの遺伝子の特徴が両方合わさり現れました。
形質と言う言葉を使って例える
実は、ボールパイソンの遺伝子の一つ一つが一つの遺伝子では構成されていません。先に詳しく解説しましたが、ボールパイソンや一部の爬虫類は遺伝子の中の染色体単位または遺伝子が複数変異して一つのモルフを形成しています。これを連鎖遺伝と言います。
先の式を例にとると
ピンストライプ(不完全優性形質)+バナナ(不完全優性形質)=バナナピンストライプ(不完全優性形質)となります。不完全優性形質と不完全優性形質を掛け合わせたので、不完全優性形質が現れます。不完全優性形質とは両方の特徴が合わさって現れる事です。このようにボールパイソンは不完全優性同士の交配の為、不完全優性形質だとかの形質を気にする必要はほとんどありませんが以下で示す、アザンティックやアメラニスティック、パイドは他のモルフに対して顕性形質または、共顕性形質を相手のモルフによっては示すことがあります。
ピンストライプが顕性性質だとすると
例えばピンストライプが顕性形質でバナナに対して顕性を持っている場合
ピンストライプ(顕性形質)+バナナ(ピンストに対して潜性形質)=ピンストライプ(バナナは表現として出ない)
となります。これはあくまで説明のための仮定である為実際にはこんなことにはなりません。
実際の例では、
パステル + アザンテック(パステルに対して顕性形質)=パステルアザンテック
パステルアザンテックですが、パステル特有の黄色部位を広げる効果はありますが、その黄色自体がアザンテックの顕性形質で打ち消されて黄色が消失、茶色が多い個体となります。(アザンのラインの一部は黄色がでます。)これにハイポメラニステックで茶色を消失させると白黒のボールパイソンが生まれますが、爬虫類の黄色は簡単に言うと栄養の保管場所でもある為、成長と共に現れる可能性があります。例としてパステルの遺伝子を保有して生まれてきた子供は、生まれた時は将来黄色くなるところが真っ白で生れます。
おおくの爬虫類は不完全優性形質を持つ
ここまで爬虫類の多くは不完全優性形質を持つ生物であると理解していただけたら幸いです。ただし、アザンテック、アルビノ(顕性形質)やパイド(エンチなどの特定の遺伝子に対して潜性形質)など、特別なものも存在します。
つまり、蛇類や特定のトカゲ類を除くほとんどの爬虫類で交配を考えている場合は、今の子の遺伝子が顕性遺伝や共顕性遺伝だと、生まれてくる子供の合わさった特徴を持つ子が産まれてくると考えたらいいです。今の子の遺伝子が潜性遺伝子の場合、お見合い相手の子が同じ潜性遺伝子を持っていないと、生まれてくる子供は親の特別な特徴を引き継ぎません。また「親越え」と言われる、おやより、よりクオリティが高い同一遺伝子の子を作りたいなら、両親が同じ遺伝子をそれぞれ保持している必要があります。または、両親が別々の変異遺伝子を持っている場合、子供は両親とはまったく違う見た目の子供が生まれることになります。
爬虫類の遺伝を自分で考える:遺伝予測
オスとメスのそれぞれの遺伝子がわかっている場合、遺伝学で使われる、遺伝予測ができます。
メスB | メスb | |
オスA | AB | Ab |
オスa | aB | ab |
以上の表はAaという対立遺伝とBbと言う対立遺伝をそれぞれ持つオス、メスを交配させたとき、子供の対立遺伝子の中身が何になるかを示しています。
このように交配する時は同じ遺伝子座の中身をそれぞれ1個1個分けます。なぜなら、交配する時は、それぞれの親は自分が持っている遺伝子の半分をコピーして渡すからです。その半分が、変異遺伝子か通常の遺伝子かはほとんどの場合において、完全にランダムだと言われています。
この表では、A,a,B,bがそれぞれどんな遺伝子なのか説明が不足しています。以下でそれぞれのアルファベットの遺伝子を定義して説明します。
例1:(顕性遺伝)AとBが同じ変異遺伝子で顕性遺伝子の場合
この場合、生まれてくる子供はAかBを持っていれば両親と全く同じ見た目になります。つまり4分の3の確率で親と同じ見た目の子供が生まれます。対して、4分の1の確率で変異遺伝子を持っていない普通の子供が生まれます。
例2:(潜性遺伝)AとBが同じ変異遺伝子で潜性遺伝子の場合
この場合、オスもメスも見た目上はAorBが潜伏している為、ノーマルですが、子供はAとBの潜性遺伝子を持っている場合、4分の3の確率で親と同じ見た目のノーマル子供が生まれます。対して、4分の1の確率で変異遺伝子を表現した(AB)子供が生まれます。
例3:(共顕性遺伝)AとBが同じ変異遺伝子で共顕性遺伝子の場合
この場合、オスとメスと同じ見た目の子供の組み合わせはAb,aBのみで、ノーマルがab、両親と比べより表現が強く表れるのはABとなります。
重要なポイント
ここで重要なのが二つあります。顕性遺伝の場合、オスが同じ顕性遺伝子を表では1個しか持っていませんが、2個持っていても、共顕性遺伝ではない為、見た目は変わりません。爬虫類ではこの状態を「ポッシブル〇〇」と言います。顕性遺伝子は同じ遺伝子を2個でも1個でも見た目が変わらない為、2個あるかもしれませんよ、生まれてくる子供に確実に遺伝しますよ、と言う意味でポッシブルと付けます。
さらにもう一つ重要なのが、その顕性遺伝は1個でも2個でも表現が同じことから、片方変異を持っていても、もう片方はノーマルの遺伝子である可能性があります。その為、見た目がノーマルの子供が生まれてくる可能性が一定存在します。
複数の対立遺伝子を計算する
上記の表は、オスが変異遺伝子を一つ持っており、メスも同じく変異遺伝を一つ持っている場合ですが、もしも、オスが変異遺伝子を二つ以上持っている場合、上記の表は使用できません。なぜかというと、先の表は、オスとメスが、同じ遺伝子座の遺伝子を持っている場合の話だからです。
複雑な場合は数学で使われる、「組み合わせ」で表します。
先の表は同じ遺伝子座のAaをAとaに分解しましたが、組み合わせでは、Aaを一つのパッケージとして計算します。
組み合わせ表
例えばオスがAとBいう遺伝子をもち、メスがCと言う遺伝子を持つ場合、「組み合わせで起こり得るすべての事象」をあらわす場合以下の通りです。
- ABC
- ABc
- AbC
- Abc
- aBC
- aBc
- abC
- abc
以上の組み合わせが3個の異なる遺伝子の組み合わせで、そのオスとメスから生まれてくる子供は8パターンある事になります。計算で出す場合、それぞれの異なる遺伝子をXとした場合2のX乗が、起こりえるすべての事象となります。小文字は遺伝していない事を示しています。
安心してください
安心してください。ここまでの計算は普通しません。実はこの手の複数遺伝子の計算を必要とするのは、現在はボールパイソンのみです。ボールパイソンは親の遺伝子がどれほど遺伝したか見た目で判断して、親の何が遺伝したのかで子供のモルフ名が決まります。この決め方を遺伝学用語で「表現型」と言います。そしてボールパイソンはこの表現型の命名でモルフ名を決めます。
他の爬虫類は?
他の爬虫類は、表現型に対して、「形質の命名」です。やっと先に話した〇〇形質に戻りますが、ほとんどの蛇は親の遺伝子から子供の遺伝子を判断して名前を決める「表現方による命名」ですが、他のトカゲ類などは、複数の遺伝子でできた一つのモルフ、つまりポリジェネリック(多因性形質)を遺伝させる物である為、親の購入時の遺伝子名のみで判断することが困難である為、生まれてきた子供の見た目は何に似ているのかモルフの一覧を見て照らし合わせます。もちろんすべてのモルフと照らし合わすのは困難である為、親のモルフを考慮してモルフ計算を行います。
最後に
この形質や、遺伝表現によく混乱が起きます。それは、ボールパイソンなどの蛇から爬虫類界に入る人が多い為です。通常は蛇以外の爬虫類の遺伝の方が一般的な考え方ですが、ボールパイソンなどの蛇は、小学生で習った、花の色の授業と同じ挙動で遺伝します。その為、顕性遺伝、潜性遺伝、共顕性遺伝という言葉をボールパイソンをはじめとする蛇では多く使いますが、遺伝子学のすこし難しい本格的な遺伝子の話では、蛇以外の遺伝子の話が普通です。蛇から爬虫類にはまった人は、遺伝のパターンの3種と拡大解釈してしまう為、いったん忘れて広い視野で見てみると、わかりやすいです。