ボールパイソンの孵化期間。温度と湿度の関係
はじめに
ボールパイソンの卵の孵化には温度と湿度が大きく関係していると思われていますが、これは大きな勘違いです。今回はボールパイソンの卵の孵化方法や温度や湿度について詳しく解説していきたいと思います。
ボールパイソンの孵化
ボールパイソンの孵化期間は日本では30℃で60日間と言われるのが一般的ですが、これは大きな間違いです。実際の孵化期間は産卵前期(排卵前の体内で卵を保持している期間)を除き、排卵後30~32℃(平均31℃以上)、湿度70%~99%を維持した場合、多くの場合55日前後~65日で孵化する結果が出ています。この10日の差は産卵前期の環境が関わっていると言われています。産卵前期は周囲環境の温度により変化し、周囲温度が低すぎると体内で長期間卵を保持し死胎(有精卵だが卵の状態で死ぬ)すると考えられています。
低温での孵化・必要湿度が高い理由
ボールパイソンの卵管理ではよく、28℃の場合は孵化までに90日かかると言いますが科学的根拠はなく、30℃~32℃でないと孵化効率が悪くなり卵内の成長には悪く、何かしらの障害が発生する可能性が上がるとされています。また34℃以上で卵管理している場合もなにかしらの障害が発生するとされています。野生時の環境温度は昼25℃~40℃夜間最低10℃~25℃で雨季か乾季により違ったり場所によって大きく異なります。おそらく、野生下のメスが抱卵している場合、メスは自身の筋肉を動かして夜間の気温が下がっている際は、27℃前後を維持しようとする事から来ていると思われます。冷血動物なのに体温変化をさせる為体力を消費して卵を温めるとはとても感動しますね。注意としては、夜間は筋肉を使って自身の体温をあげます昼間は温めなくても温度が高いです。通常は夜間でも高温の状態が維持されます。これらの28℃での結果は野生時のボールパイソンの卵の孵化の監察結果の極一部であり、人工繁殖では28℃の孵化は良くありません。また、抱卵は土の中または、木の穴の中で行われることから過度に温度の変化はなく、孵化までは平均30℃が維持されます。木の中、土の中で孵化を行う事からボールパイソンの孵化に必要な湿度は比較的高く70%~99%とされています。
飼育下での卵管理
飼育下での孵化は、メスの負担を下げる為、採卵してインキュベーターで温める事が良いとされています。先の記述通り、インキュベーター内を温度30℃~32℃、平均して31℃以上が維持できる環境で孵化させる必要があります。また湿度を70%以上を維持させるためにバーミキュライト、または、パーライトに水を加えインキュベーター内の湿度を維持、監視する必要があります。
卵へのダメージとなる行為
卵を孵化させる場合のNG行動を紹介します。これらの問題を回避するためにプラスチック製の「卵を一つ一つ置ける」孵化専用容器があります。直接孵化用の床材に置くのではなくそれらの容器を使う人が多いのは以下のNG行動を避ける為です。
卵の向きを変える
卵を見つけたらまずは天井に近い部分にマークを付けます。そしてその卵の向きが変わらぬように孵化機に入れます。一般的には出てすぐの卵は上下逆にしても問題はないとされていますが、念には念を入れてブリーダーでも卵にマーカーを入れます。卵がつながっている場合、卵が生まれてすぐであれば卵同士をはがしても問題はありませんが、しばらく時間が経っている場合、無理にはがすと卵の殻が裂けてしまうので卵同士がつながったまま孵化機に入れます。孵化にはさほど問題はありませんが、なるべく卵が縦にならないように置くことがいいとされています。卵が避けている場合は、避けている個所を医療用のは撥水性粘着ガーゼで閉じる、海外ではボンドやセロハンテープで止めてるのを見たことがあります。
孵化機内の急激な温度変化
急激と言っても30℃~32℃を前後しているなら問題ありませんが、毎日20℃~32℃を前後するならば危険と言う事です。
過度な乾燥
湿度が70%~99%を維持していても卵が過度にへこむことがあります。これらは湿度が低い事から起こるとされておりすぐに湿度が高くなるように霧吹き等の対策を行いましょう。すぐに対処すれば卵へのダメージは少なくて済むと言われています。
過度な水分
湿度が99%までが良いと言っていますが、あくまで湿度であり、水に直接触れていはいけません。水に直接触れている際は接触部の卵の殻が薄くなり卵と水とで浸透圧の関係が生れ卵内に過度な水分が流入、1時間程度で腐ってしまいます。
孵化機内の卵が腐っている
他の項目でも触れていますが、問題がある有精卵をふ化器に入れた場合、湿度の影響で数日で腐ってしまいます。その腐った卵から液が漏れ出て横並びの卵などに床材を通して浸食してしまい他の卵も腐ってしまいます。多くの原因としてスラッグ、または無精卵を接触させた状態または同室で管理しており異常卵が腐し、ほかの卵に影響します。腐敗臭がした場合は、孵卵床材を交換し、腐っている可能性のある卵は隔離しましょう。孵化用の床材に完全に触れないようにする道具は初心者には必須レベルの道具です。爬虫類ショップが販売している物が多く販売されているので、簡単に手に入れることができます。
おすすめの孵化環境
市販のキャンプ用などの温蔵庫を購入して、Amazonでも購入できる【ハッチライト】などを卵の下に敷き、その温蔵庫の温度を31℃か32℃にセットして温蔵庫内が本当に31℃前後なのか温度計で確認します。ハッチライトなどの爬虫類の卵用の敷材は使う前にしっかり袋を振り、中の素材の偏りを直す必要があります。これは、湿度を維持させるためのゼリー(保湿剤)が袋の下に溜まってしまい、袋から出した時にパーライトだけが出て湿度維持用の保湿剤が出てこない事を防ぐためです。
孵化用床材の種類と自作
ハッチライトの使用が確実で、ハッチライトで孵化に失敗したのならば原因は他である可能性が高いです。自作で行うと、その自作床材が原因の可能性が出てきます。自作するのであれば、バーミキュライトとパーライトを半分ずつの比率で入れます。卵を横にした時の4倍以上の高さのあるタッパーに半分以上入れて、そのタッパーにラップをつけます。私の経験上ラップはなくても孵化しますが、水分の蒸発がはげしいので、定期的に床材に水を入れないといけません。床材に塩素を含む水を定期的に入れると雑菌効果は高まりますが、温度変化が激しくならないように気をつけましょう。パーライトは水分保有性のが高く、バーミキュライトは温度を維持する効果があります。半分ずつ混ぜたものに直接水道水を入れすぐに余分な水分を捨てます。これはパーライトが水を過剰に吸収しない為にすぐに水を捨てる必要があります。水を過剰に吸っていると、床材がべちょべちょになります。そのような状態で卵を置くと卵が床材から水を吸収しだして1時間程度で卵が腐ります。
床材を使用しない方法
床材は必ず必要というわけではありません。ふ卵器内の湿度が70%以上、温度を平均31℃以上を維持すればいいだけです。ですが水の温度を維持することは容易ではなく、水槽用のヒーターの場合、水の流動を前提として作られているため、電源のONとOFFが一定時間刻みに行われます。その為、期待通りの温度に達する前に急激に温度が下がります。具体的にロジックを説明すると、ヒーターON→発熱開始→すぐに30℃になったと検知(本当はヒーターが30℃になっただけでヒーターから少し離れた場所は25℃)→一定時間停止(ヒーター付近の温度も25まで低下)→ヒーターOnを繰り返します。その為、水槽用のヒーターは水が流動している前提の設計である為使用できません。もし水の流動をさせたいのであれば容器内の対角にブクブクを設置しなければなりません。サーモセンサーを設置して、サーモ専用ヒーターをその反対側に置くとヒーターは稼働し続ける為水は期待通り温められますが、水の蒸発によりセンサーが露出した場合、熱暴走を起こし水温60度になり、水がすべてなくなりヒーターが露出すると火事になります。
人工孵化をする時の重要な注意点
ボールパイソンの卵は産卵後すぐであれば、卵の上下を多少変えても問題はないとされていますが、基本的に上下が変わらないように産卵されたそのままの向きを維持させてインキュベーターに入れます。これは卵内のヨークサックと言われる物が卵の上部(天井側)にないとヨークサックと体をつないでいる、人間でいう臍の緒のようなものが体に絡まってしまい死んでしまうからです。ヨークサックは卵内で体を形成する栄養源でもあり、将来体内に吸収され消化器官に変化する物です。
鳥類用のインキュベーターは危険
鳥用のインキュベーターは卵を自動回転する機能がついています。爬虫類の卵は鳥類の様に回転させたら先に説明した通り危険です。
スラッグとは?
スラッグとは黄色っぽくて小さな卵の事を指しますが、生物学的な言葉ではなく、誰かが勝手に言い出した俗語です。これらはスラッグと言う名前のカタツムリに似ていると言う理由で海外で紹介されていますが。正しくは、ナメクジ全般の事をスラッグと言います(ナメクジは殻の無いカタツムリとして分類されています)。日本では無精卵の事をスラッグと勘違いしている場合が多いですが、実際の無精卵は有精卵と同じ見た目をしており白くて大きな形をしています。無精卵は英語で「unfertilized eggs」と言います。スラッグは主にストレス、栄養不足によりできるとされています。
余談ですが「モンスターズインク」という映画で出ていたナメクジもスラッグという名前でしたね。先の話につながりますが、このキャラクターは「走るカタツムリ」と言われていましたが、公式がスラッグ(ナメクジ)であると次回作で発表しました。これらの間違いはアメリカなどの英語圏ではカタツムリもナメクジもスネイル(カタツムリ)と一般的には呼ぶようです。スネイルとは「害虫」という意味も持っているとのことです。ナメクジもスネイルと教育されるようです。ちなみにナメクジとカタツムリを厳密に分けて呼ぶのは日本だけの様です。
無精卵ができる理由
先にスラッグができる理由を言いましたがスラッグは卵13個中2個など比較的多い割合で排出されることがあります。これらの大きな理由は栄養不足やその他理由によるものですが、無精卵は蛇に関しては一般的には産卵されません。他のトカゲ類などの爬虫類は毎年無精卵を産む種類がありますが、蛇は無精卵に限らず、ストレスなどの環境要因により有精卵でも、産卵されずそのまま体内で溶けて母体が吸収します。つまり、スラッグではない卵のほとんどが有精卵であり、無精卵である確率は通常無いに等しいですが、以下の場合無精卵を有精卵と同時に産卵する可能性があるとされています。母体の年齢が3歳に満たない。母体の年齢が高齢。オスの精子不足(受精失敗)。無精卵には年齢が大きくかかわっていると言われています。3歳以下で産卵する場合、スラッグは少ないが産卵する卵自体が3個~5個など非常に少なく、無精卵を産む可能性が高いとされています。高齢の場合、8個~15個の卵を産み内2割の確率でスラッグが生まれ内1個以上が無精卵になると言われています。繁殖期間中のオスからの精子の受け渡しの期間がずれすぎて、卵に精子が受精しない場合、無精卵を含んで産む可能性があるとされています。ただし、通常オスから渡された精子は約1年はメスの体内で保持が可能と分かっています。ペアリングをしていないのに産んだ場合、無精卵が生まれる可能性が高いと言う意味です。
繁殖可能個体の見極め
繁殖を計画する際、重要なのはメスの場合、年齢と体重でありオスは年齢や体重よりプラグと呼ばれる乾燥した精子の塊が排出されるかどうかを確認します。またブリーダーは繁殖させる場合はメスの条件は大きく変わりますが、ブリーダーではない限り、一般的な指数を参考にすることをお勧めします。なぜなら一般飼育者とブリーダーでは飼育温度、湿度、飼育環境、餌の頻度が異なるからです。ブリーダーはラットを週2で与えたり一度に食べれるだけ与えたりします。一般飼育者がそのような高頻度で餌を与えると破産します。
一般的な繁殖可能個体の見極め方法
メスは空腹時体重2キロ以上かつ、年齢3歳以上
オスは700g以上で長期拒食期がある、または、プラグが出ている。
ボールパイソンのアダルトを見たことがない人は、小さなサイズでも繁殖させようとしてしまいます。YouTubeなどでもボールパイソンの卵が映像で出てきたりしますが、ボールパイソンの卵は爬虫類の中では比較的大きいです。これはパイソンと名の付く蛇特有です。縦横の大きさで言うとタバコひと箱より少し大きいくらいの卵を産みます。実際の大きさはエナジードリンクのモンスターの3分の2くらいの大きさの卵で、それが何個も体に入る大きさまで成長させないと危険だとイメージすると、2キロ以下で繁殖させるのはかなり危険なことだとわかるはずです。
オスは割と年齢や体重は関係ないです。プラグさえ出ていれば繁殖は可能です。ただし、ペアリング中はオスメス共に長期間餌を与えないので、痩せている個体はNGです。オスは繁殖期になると拒食する傾向が強い為、拒食しだしたらメスのケージ内に入れたりします。
ペアリングの方法
一般的にはメスのケージにオスを入れます。これはメスが自身のケージではなくオスのケージに入るとストレスを感じるのではないかという憶測から来ています。オスのケージ内にメスを入れても問題はありません。爬虫類は基本的に小動物、哺乳類と異なり、毛がなく自身特有の匂い、同類の匂いなどはありません。それ故、ケージの場所が変わっても大きな問題はありません。ただし、オスのケージ、メスのケージで使用している床材が違ったり、温度や湿度が大きく異なる場合は問題となります。一般的にメスのケージにオスを入れておけば問題は起こりません。
オスをメスのケージに入れて3日ほど置き、オスを取り出しオスは元のケージに1日か3日戻します。その後またメスのケージに入れる、出すを繰り返します。これを1ヵ月続けます。これだけでクーリングやオスやメスに特別な事をしなくてもメスが妊娠します。これは、オスは1度交尾すると2度目の交尾をする確率が下がるからです。1回交尾させて取り出して、期間を置き、再度メスのケージに居れたら交尾します。
オスの個体が心配な場合
オスが繁殖適正があるかどうかわからない場合はオスを2匹準備して先の工程を繰り返します。メスが妊娠する確率をあげる方法です。Aというオスをメスのケージに入れて3日後Aを取り出してBのオスを入れます。また3日後Bを取り出してAオスを入れます。これを1ヵ月行います。
オスをメスのケージにいれたままでも妊娠する
メスのケージの中にオスを入れたままでも妊娠します。ただし、先に書いた通り、1回目の交尾以降の交尾する確率は下がります。これは、ボールパイソンの繁殖が雄次第でオスのやる気が重要と言われる原因です。オスは1回やった相手と2回連続でやるのが嫌みたいです。一度メスケージからだして新鮮な気持ちでチャレンジしてもらいましょう。
ケージ内の長期多頭飼いでのリスク
先にメスのケージにオスをいれたままでも妊娠すると言いましたが、長い間入れておくとどちらかが死にます。これは蛇特有の攻撃の仕方で、蛇同士で喧嘩する際は、お互いに噛みついたり絡み合うわけではなく地面や角に押し付けて圧死させます。これを”Crushing” (押しつぶす)といいます。またどのように相手を殺したかわからないが同族どうして殺した意味として『コンバット(戦闘行動)』という場合があります。長期間オスメスの異性同士を同じケージで飼育していたら頻繁に起こる事で、同性同士だとより高確率で殺し合いが起こります。木の上を主に生活しているグリーンパイソンなどがお互い喧嘩をせず、樹上性はコミュニティー性が高いと言われているのは、この圧死をすることができないからです。お互い仲良く見えているだけです。
こんな時はペアリングをやめよう
餌を与える時はオスメス別々にして餌を与えましょう。そして24時間後にペアリングを再開しましょう。どちらかに餌の匂いがついていると、餌と勘違いして食べてしまいます。
オスメスどちらかが脱皮前兆が出たらやめましょう。脱皮不全になります。メスの場合は脱皮が妊娠の前兆などと言いますが、眼や体が白くなったら。ペアリングはやめて脱皮が終わるまで待ちましょう。メスの脱皮が終わってすぐは妊娠しやすいと言われています。すぐにオスを入れましょう。
メスが回転行動をした場合、ペアリングの必要はありませんは、ペアリングはやめましょう。メスが腹を横や斜め上、真上に向けて動かない場合は、妊娠しています。お腹に卵があり呼吸しづらい為、そのような行動をすると言われています。約1か月後には産卵します。回転行動をした場合餌を与えてはいけません。
エッグカットについて
最適な温度で飼育していても決まって一斉に卵から出てくるわけではありません。よく、卵から出てくる前にエッグカットをする人が多いですが、間違えてカットする人も多いようです。今年(R5年)は5人もSNSで見ました。去年は1人しか見ませんでした。爬虫類ブームの副作用かもしれません。
エッグカットをすることは否定しませんが、やる時期が間違えています。卵数個の内1個以上は自ら卵から出てきていたり、卵に亀裂が入り割れて中が見えて健康に動いている状態なら一般的には他の卵をあけてみても問題ありません。ただし、安全策で、3日まったり何もせず自然ふ化するのを待つことをお勧めします。通常は一つの卵が自然ふ化していれば翌日にはほとんどの卵が割れています。
インキュベーター内の温度差は普通ない
同じインキュベーター内で管理していたのなら、卵の場所が違っていても、他の卵もほぼ同じくらい成長しています。卵から出てくる、卵が割れているのであれば他の卵もヨークサックを吸収している程度には成長しています。インキュベーター内は湿度が70%以上のはずです。湿熱伝導(湿度と熱伝導の関連性)により湿度60%以上の場合、インキュベーター内での場所による温度差は密室では理論上差はほぼ生まれません。ただし、インキュベーターがガラスで覆われている場合、ガラスに結露が発生し、室内の温度差が、ガラス側は著しく下がります。市販のインキュベーターまたは温蔵庫はガラスは使用されずプラスチックまたはアクリルを使用し結露を防止させ、室内の温度を下げないように設計されています。