チンチラのモルフ一覧と致死遺伝

ネズミ目

チンチラのモルフ一覧と致死遺伝

はじめに

 チンチラは変異遺伝子同士の交配は非常に困難である事が有名ですが、実は小動物と分類されている動物の多くがチンチラと同様に危険な交配(致死遺伝)が多いです。今回はチンチラのモルフを一覧形式で紹介しようと思います。

チンチラの遺伝子の種類

 遺伝子の種類は大きく分けていかになります。

カラーミューテーション

「ホワイト」「ブラック」「ベージュ(ブラウン)」「バイオレット」など色をメインとした遺伝子

パターンミューテーション

「エボニー系統」「ベルベット系統」「パール系統」など柄や色の出かたをメインとした遺伝子

コートミューテーション

「ロイヤル・ペルジアン・アンゴラ」「カール」など毛並みを変化させる遺伝子

遺伝子の特異点

 チンチラの遺伝子ではよく「遺伝子コード」と言われています。これらはホワイトやブラックなどのモルフが遺伝子そのものではなく「メラニンの欠如体」「色素配列異常体」を引き起こす遺伝子である為です。つまり、親から子供に特徴が遺伝した際に、親同等の見た目にならず、色素異常の度合いによって色の濃さや変異の場所が異なります。これらの遺伝子を総称して「ピグメント遺伝子(色素遺伝子)」と言います。チンチラのモルフのほとんどが言い方を変えれば「先天性色素障害」によりカラーが変わる動物である為、遺伝子コードを引用してモルフをあらわすことがあります。例としてホワイトは「MC1R(メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)の受容体タンパク質をコードする遺伝子)」であり、メラニン抑制を起こす遺伝子である為、ところどころ薄い黒が出てきたりします。ただし、遺伝子コードを配慮しなくても下記の致死遺伝の簡単な組み合わせに注意すれば回避することができます。

チンチラの致死遺伝

 チンチラの致死遺伝の問題は1970年頃からすでに知られています。その為、名前で致死遺伝となる組み合わせが簡単にわかるようになっています。それ故、ブラックエボニーは通常「エボニー」と言われています。これは、ブラックエボニーとブラックベルベットであっても交配しても問題がないが、エボニーをブラックエボニーと呼称するとブラック同士の交配で危険と勘違いしてしまう為です。

 チンチラの致死遺伝を引き起こす組み合わせとして、同じ名前が入っている物同士は致死遺伝を引き起こします。カラーミューテーションの4種類とパターンミューテーションの3系統、コートミューテーションはそれぞれ、お互いに異なる変異遺伝子の場合、致死遺伝は起こしません。ただし、ホワイトと言われる個体はパイド(ウィルソンホワイト)の総称、ブラックと言われる個体はブラックベルベッドの略称であると言う事を覚えていなければ間違えてしまいます。

ホワイト × ホワイト = 致死遺伝

ホワイト × ブラック = ホワイトブラックベルベット

 このように同名同士の組み合わせは致死遺伝を起こしますが、別名の場合は致死遺伝の可能性は一般的には問題ありません。ただし、すべての致死遺伝を回避する組み合わせであっても変異遺伝子同士での交配をする場合は奇形や致死遺伝が少なからず存在する為、一般的には、変異遺伝子を保持している個体に対して交配する場合はスタンダードグレー(ノーマル)が推奨されます。しかし、ブリーダーも同様にノーマルと掛け合わせを行っている為、ノーマルが市場に出ること自体が珍しいです。

 勘違いしやすい事の一つとして、ブラックベルベットとホワイトを掛け合わせると危険と言う意見がありますが、ベルベットの腹部の白はホワイトの遺伝子の白ではない為、問題ありません。ベルベットという遺伝子は胸部から腹部に対して色抜きをしますが、ホワイトの遺伝子はパイド遺伝子である為、腹部だけに出るだとかの、規則性がない白化になります。

モルフ一覧

 カッコ内は別名が主ですが、クオリティーの差での呼び方の違いなどでも呼び方が変わります。詳しくはそれぞれの項目で解説しています。

スタンダードグレー(ナチュラル)(ノーマル)

 ノーマルのチンチラです。全身が黒っぽい色で構成されています。ナチュラル、ノーマルは別名です。遺伝子上、見た目上は違いはありません。

ホワイト(パイド)(モザイク)(モザイクホワイト)(ウィルソンホワイト)(シルバー)(シルバーホワイト)(ピュアホワイト)

 ノーマルの場合体には白色部はほぼありませんが、ホワイトの遺伝子を持っている場合、体の一部または全身が白化します。白色部の割合や模様によりそれぞれの別名が使用されます。モザイクは乱雑に体のところどころにはっきりとした黒い毛の集団がある時、モザイクホワイトは耳以外ほぼ白、シルバーは全身に対して差ほどパイド遺伝子が効果せず、全身が灰色に見える場合はシルバーとなります。

ブラック(ブラックベルベット)(タッチ オブ ベルベット(TOV))

 胸から腹部にかけて白く、他は黒い個体。この遺伝子を保持している場合、毛の密集率が低いとされています。真っ黒の場合ブラックベルベット、少し白が混ざったような灰色の場合、タッチオブベルベットです。遺伝子は同じで多くの場合、灰色ではなく黒であるブラックベルベットが主流です。ブラックベルベットからTOVが産まれることもあれば逆もあります。

ホワイトブラックベルベット(TOVモザイク )(TOVホワイト)

 胸から腹部にかけて白、その他部位はパイドの効果により部分的またはほとんどが白化します。別称による違いはありません。ホワイトとブラックベルベットの掛け合わせにより生まれる複数遺伝子形質(ポリジェネリック)です。

ベージュ(ヘテロ ベージュ)(ホモ ベージュ)

 体全体または、一部が赤毛(ベージュ)の個体。特異点として、共優性遺伝子の特徴を持ち。ヘテロベージュはノーマルに比べ少し色が薄いのに対し、ホモ ベージュはより色が薄くなり、赤毛に見えます。ヘテロはベージュ遺伝子が一つホモはベージュ遺伝子が二つある事を示しています。体の色が薄くなればなるほど目の色も赤に近づいていきます。

ピンクホワイト(ベージュホワイト)(ベージュモザイク)(ホモ ベージュホワイト)

 ホワイトとベージュの掛け合わせにより生まれるモルフです。これらの別称は遺伝子の数により呼び方が異なります。ベージュホワイトまたは、ベージュモザイクは、ベージュの遺伝子を一つと、ホワイトの遺伝子を一つ、計二つの変異遺伝子を保持している場合の名称です。対して「ホモ ベージュホワイト」「ホモ ベージュモザイク」はベージュの遺伝子を二つ、モザイクの遺伝子を一つの計3個保持している場合です。ベージュで説明した通り、眼の色が体の色の薄さに比例して赤くなります。ホモベージュ、ヘテロベージュを総称してピンクホワイトと言います。

ブラウンベルベッド(ベージュTOV)

 ベージュとブラックベルベットの掛け合わせにより生まれるモルフです。ブラックベルベットの色が少し薄くなり黒ではなくブラウンに見えることにより名づけられました。ベージュがホモ結合でも見た目上は大差ないようです。

ブラックエボニー(エボニー)(ヘテロエボニー)(ホモエボニー)

 エボニーは耳以外全身が同じ色のモルフの事を示します。単に「エボニー」とついている場合は「ブラックエボニー」の事です。 別名でヘテロ、ホモとありますが、先のベージュと異なり、共優性遺伝を示している物ではなく、色の濃さを示している言い方です。エボニー自体は優性遺伝子です。色がより濃い場合、ホモエボニーと言われます。それに対して薄い場合はヘテロエボニーと言います。 他のチンチラの遺伝子と異なり、エボニー同士で掛け合わせても致死遺伝の可能性は高くありませんが、優性遺伝子の為、エボニー遺伝子をホモ結合(優性遺伝子のホモをポッシブルホモと言います)で保持できたとしても必ずしもより色が濃くなるということはありません。ただし、濃い色同士を掛け合わせた場合、濃い色が生まれやすいと言われていますが、優性遺伝子をホモ結合で持っている個体同士を交配させた場合、一般的には多くの生物で致死遺伝の可能性が高まると言われています。

ホワイトエボニー(モザイクエボニー)(モザイクブラックエボニー)

 エボニー(ブラックエボニー)にホワイトを掛け合わせた場合に生まれてくる可能性があります。エボニーとホワイトの遺伝子を持っている個体です。ホワイトの効果で体の一部または全身に対して白化が現れます。エボニー自体が黒である為、白黒の個体が生まれます。

タン(ベージュラップ)(パステル)(チョコレート)(ホモ タン)

 エボニー(ブラックエボニー)とベージュを掛け合わせた場合生まれてくる可能性があります。全身がベージュと同じ色になり。ベージュの効果量により目の色が赤に近づきます。ベージュ遺伝子をホモ結合で保持した場合、ホモタンになります。他の名称はエボニーの効果量による色の濃淡での異なる命名ですが、それぞれの名前がどのレベルによるものなのか確認できませんでした。ただ、ホモタンはホモベージュの色が一番薄い部分が全身に広がっているようなカラーです。別名にある「ラップ」とは、エボニーの事を示しています。ラップは全身を包んでいると言う意味だそうです。

エボニーブラックベルベット(TOVエボニー)

 エボニー(ブラックエボニー)とブラック(ブラックベルベット)の掛け合わせにより生まれる可能性があります。エボニーですが、胸から腹部にかけてブラックの効果で白が効果し灰色が出ます。

サファイア(ホワイトサファイア)(ベージュサファイア)(ブラックサファイア(サファイア ロイヤル))(サファイアラップ)

 サファイアは全身が青みがかります。劣勢遺伝子であり、表現として出すためには、サファイアの遺伝子を2個保持(ホモ結合)している必要があります。ホワイトサファイアは、ホワイトとの交配で生まれる可能性があり、全身が綺麗に薄い青にパイドの効果が乗ります。色のイメージとしたら、生地が薄くなったジーパンです。ベージュサファイアはベージュとサファイアの掛け合わせで生まれます。体色は鼠色に近いカラーです。ベージュをホモで保持している場合、眼がかなり特徴的であり、黒い眼に赤い稲妻のような模様だったり、何かしらの模様が出ます。そのことからかなり高価で取引されています。ブラックサファイアはブラックベルベットとサファイアの交配により生まれる可能性があります。全身が黒から、サファイアの効果で紺色になります。サファイアラップはサファイアとエボニーのコンボです。

ヴァイオレット(ホワイトヴァイオレット)(ベージュヴァイオレット(パールベージュ))(ブラックヴァイオレット(ウルトラヴァイオレット))(ヴァイオレットラップ)

 ヴァイオレットは劣勢遺伝子である為、遺伝子を二つ保持する必要があります。つまり、両親それぞれ最低一つヴァイオレットの遺伝子を保持していいないと子供にヴァイオレットが生まれる可能性がありません。ヴァイオレットは毛の色が薄い紫になりますが、これは個体差が激しくその紫の強さで値段が上下します。()内はヴァイオレットが他の遺伝子とコンボした際の名前です。

ブルーダイアモンド(サファイアヴァイオレット)

ヴァイオレットという劣勢遺伝子とサファイアという劣勢遺伝子をそれぞれ2個づつ(ホモ結合)保持できた場合はブルーダイアモンドとなります。現在のチンチラのモルフの中ではTOPのモルフになります。値段も100万近くの個体もありますが、現在では50万前後で販売されています。

ホワイトダイアモンド、ベージュダイアモンド、ヴァイオフィア(ブラックダイアモンド)、ブルーダイアモンドラップ

ブルーダイアモンド(ヴァイオレットとサファイアのW劣勢モルフ)にコンボした際の名前です。普通販売されていません。販売価格は日本では100万を超えることが多いようです。

ゴールドバー(シャンパン)

赤目、腹白、全身白、耳ピンク。一見アルビノに見えますが、ベージュの変異体と言われています。劣勢遺伝子と言われていますが、詳しい情報はありません。

ブラックパール(ポーランドブラックパール)(パール)

 ブラックベルベットと勘違いされることが多いモルフですが、パールは劣勢遺伝子であり、ホモ結合でしか表現として現れません、また大きな違いとして、しっぽの毛が尖っていることが判別方法として知られています。また、ブラックパールと名前がついていますが、ノーマルがパールをホモ体で持っていても変化がわかりにくい事から、単純にパールと名前がついている場合はブラックベルベットとパールがコンボしている状態です。一般的な動物では劣勢遺伝の表現体である場合は高値が付きますが、パール自体が扱いが難しく、ベルベットとの違いが一般人には判別が困難である事からベルベット同等の価格で販売されています。ただし、サファイアパールやブラウンパールなどは、他のモルフとは異なる美しい色、光沢である為非常に効果で取引されます。パールに対して交配する場合、パールを掛け合わせると致死遺伝となる事から、パールにはヘテロパールを交配する必要があります。

ロイヤル ペルシアン アンゴラ(ロングコート)

 ロイヤル・ペルシアン・アンゴラはこれで一つの名前です。毛が猫の様にしなやかで長くなります。この遺伝子については詳しく解析されておらず、共優性遺伝の特徴を持つ遺伝子と言われていたり、劣性遺伝と言われていますが、結果として、ロイヤルペルシアンアンゴラとノーマルの掛け合わせで生まれてくる子供はノーマルより毛が長い子供が生まれます。これは、この遺伝子が累積遺伝子である事を証明すると言われていますが、累積遺伝子なんてものは造語であり存在しません。

カーリー(ロッケン)

パーマがかかったような毛になります。劣勢遺伝子であるといわれていますが、現在も詳しくはわかっていません。累積遺伝子と言われています。(累積遺伝子なんて言葉は正式なものではなく本来存在しません。)

さいごに

 チンチラの遺伝子を始め多くの小動物は名前で危険な組み合わせを回避できるようになっています。それ故、同じ名前同士は危険と言われます。また、チンチラの遺伝子の一部で「累積遺伝子」という言葉が出てきます。これらは、子供に遺伝した場合、親より劣るという意味であり、同じ遺伝子同士を掛け合わせた場合より強い表現になるが共優性遺伝子ではない。という意味で使われますが、これらは正式な用語ではなく、またこの世にそのような特徴を持った遺伝子は存在しません。私の考えにはなりますが、それらの累積遺伝子という物は、チンチラの亜種である可能性があります。他の動物ではそれらの特徴を持つ遺伝は亜種として扱われています。わかりやすい言い方でいうと産地の違いにより保有しているノーマル遺伝子自体が違うという事です。よくあるのが、亜種でのノーマル遺伝子の場合、外気温や湿度で毛並みや長さが変わったりします。これらを外的要因と言ったり環境遺伝子と言います。チンチラのカーリーやアンゴラも一般的な産地のチンチラとは違う場所で生れた遺伝子です。