クレステッドゲッコー(Correlophus ciliatus)の飼育管理に関する総合的研究2025年版
要旨(Abstract)
本研究は、ペットとして世界的に人気の高いクレステッドゲッコー(Correlophus ciliatus)の飼育において最適な環境条件および管理方法を明らかにすることを目的とし、国内外の文献調査に加え、実際の飼育記録に基づいた観察を通じて、飼育環境、給餌方法、健康状態の維持、さらには繁殖成功率との関連性を検証した。対象個体は計5匹とし、個体ごとに温湿度管理、食餌内容、ケージの大きさで比較した。
その結果、適正な温度範囲および湿度を安定して維持することにより、繁殖に対してはケージの大きさ、安定した飼育には餌の選択も重要であることが判明した。
食餌管理においては、YouTubeなどでコオロギにカルシウム剤を添付した方が良いという情報発信がされている一方、夜行性であるが故、カルシウム添付が不足という意見が多かったが、結果として安定した飼育を目指す場合はカルシウム剤を入れる又は、人口フードに混ぜることは重要である可能性がある。
繁殖においては、観測の結果活動量の重要性が見受けられたが、ケース記録が少ない為断定はできず、繁殖が失敗しているのはケージの大きさが起因してい可能性もある。
1. 序論(Introduction)
クレステッドゲッコー(Correlophus ciliatus)は、ニューカレドニアに固有の夜行性樹上性ヤモリであり、その独特な外貌と比較的容易な飼育特性から、近年急速にペット市場においてその人気を高めている種である。19世紀に一度記載されたものの、長らく野生での確認例がなく絶滅したと考えられていたが、1994年に再発見され、その後急速に飼育下での繁殖が確立された。現在では国際取引が制限されている一方で、飼育個体由来の繁殖種が世界各国で普及し、日本国内においても流通量および飼育者数が年々増加している。世界の中ではクレステットゲッコーの繁殖に関しては大韓民国(以下韓国)が発展しており、日本はその恩恵により他国と比較し高品質の生体が安価に国内供給されている。その一方繁殖方法及び幼体飼育方法の情報は閉鎖的であり、確立された方法はないも、韓国ブリーダーの発信により、幼体は生き餌のコオロギが重要であると発信されている。
本種は特段の加温設備や強力な紫外線照射を必要としないことから、「初心者向け」として紹介されることが多い。しかし実際には、適切で一貫性のある湿度管理や食餌構成など、科学的検証に基づく飼育指針が十分に確立されているとは言い難く、飼育下での健康障害や不適切な繁殖管理に起因する問題も少なくない。
また、本種は樹上生活に適応した形態を持ち、垂直空間を必要とするほか、野生下では果実や昆虫を主に摂食する雑食性であることが知られている。従って、平面的なケージレイアウトや偏った給餌内容では、ストレスや栄養不良を引き起こすリスクがあり、今回の観測結果でも活動量が確保できないケージでは肥満傾向にあり、繁殖も失敗している。
近年では、クレステッドゲッコーの福祉に配慮した飼育環境や食餌、繁殖の最適条件に関する知見が徐々に蓄積されつつあるが、依然として飼育書やインターネット上の情報は経験則に基づくものが多く、科学的根拠に基づいた体系的な情報は限定的である。
本研究では、文献調査と実際の飼育観察を基に、クレステッドゲッコーの健康的な飼育に必要な環境要因(温度、湿度、空間構造)、食餌管理(完全食と活餌の併用)、および繁殖に関わる要因を多角的に検討し、科学的かつ実用的な飼育指針の確立を試みることを目的とする。本稿が、飼育者のみならず、動物福祉の観点からも本種の適正飼育の啓発と普及に資することを期待する。
2. 材料と方法(Materials and Methods)
2.1 飼育環境の設定
調査対象は計8個体(性別無作為)であり、それぞれ異なる爬虫類用テラリウムに収容した。内部にはコルク、流木、人口植物を設置し、登攀行動を可能にした。温度と湿度は以下の通りに管理した:
温度設定
- 日中温度:夏季26~31℃ 冬季 20℃(エアコン管理)
- 夜間温度:夏季20℃~27℃ 冬季 20℃(エアコン管理)
- 湿度:40〜60%
ケージ設定
パターン | モルフ名 | 性別 | 年齢 | ケージ製品 | ケージサイズ (W×D×H cm) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
A | レッド | 雄 | 不明 | グラステラリウム4060 | 45 × 45 × 60 | 同居経験あり(Bと交尾) |
B | ハーレークイン | 雌 | 不明 | グラステラリウム4060 | 45 × 45 × 60 | Aとの同居後、産卵を確認 |
C | タイガーファイアー | 雄 | 不明 | グラステラリウム4045 | 45 × 45 × 60 | Dと同居 |
D-1 | ハーレークイン | 雌 | 不明 | グラステラリウム4045 | 45 × 45 × 60 | Cと同居 |
D-2 | ハーレークイン | 雌 | 不明(変更前) | グラスハーモニー450Plus | 46.8 × 38 × 31 | Dの以前の飼育ケージ |
E | ハーレークイン | 不明 | 3か月未満(幼体) | グラステラリウム3045 | 30 × 30 × 45 | 死亡(死亡前日まで活動あり) |
パターンA レッド
- 性別:雄
- 年齢:不明
- ケージ製品:グラステラリウム4060
- ケージサイズ:横45×奥行45×縦60
パターンB ハーレークイン
- 性別:雌
- 年齢:不明
- ケージ製品:グラステラリウム4060
- ケージサイズ:横45×奥行45×縦60
パターンC タイガーファイアー
- 性別:雄
- 年齢:不明
- ケージ製品:グラステラリウム4045
- ケージサイズ:横45×奥行45×縦60
パターンD-1 ハーレークイン
- 性別:雌
- 年齢:不明
- ケージ製品:グラステラリウム4045
- ケージサイズ:横45×奥行45×縦60
パターンD-2 ハーレークイン
- 性別:雌
- 年齢:不明
- ケージ製品:グラスハーモニー450プラス
- ケージサイズ:横46.8×奥行38×縦31
パターンE ハーレークイン
- 性別:不明
- 年齢:3か月未満
- ケージ製品:グラステラリウム3045
- ケージサイズ:横30×奥行30×縦45
2.2 食餌と栄養管理
パターンAからDまで同時刻に同じ餌を与える。
週1回 レパシー(バナナ味)を規定に従い作成し、ケージ内に施工。
月1回 ヨーロッパイエココオロギML(生き餌) 5匹 レパシー施工の代わりにケージ内導入。
パターンDは死亡までヨーロッパイエコオロギS(生き餌) 10匹 消費確認後導入を繰り返す。
2.3 健康状態のモニタリング
各個体の食欲を観察。餌消費速度を観察。温度は飼育施設設置SwitchBotにて記録。
3. 結果(Results)
パターンA~D
- 年間生存率:100%(n = 4)
- 平均成長速度:顕著な成長なし。冬季終盤 パターンAとBで体重減少あり。
- 代謝性骨疾患(MBD)の発症率:疑わしき個体 パターンBのみ
- 脱皮頻度:脱皮柄を摂取する為観測至らず。
- 繁殖成功率:パターンB 受精卵産出率 100%(出産卵数約20)自然孵化成功率 0% 人口孵化成功率0%
4. 考察(Discussion)
本種は環境変化に強く発病率は非常に低いといわれている。他爬虫類との特異点は消化器の発達であり。爬虫類の中でも稀である特定条件達成で消化速度が2倍(24時間(24℃以上)⇔48時間(24℃以下))となると発表されている。
ケージによる差
パターンAからDまで同一の餌を与えているがケージの大きさの違いによりAとBは夜間の活動量が多い、対してCとDは活動可能範囲は狭く動ける範囲が狭いことから肥満気味であるも全く動かない事ではなく、餌を激しく追いかけたり夜間は場所を移動をしている。パターンDはCと同居以前横に広いケージを使用(パターンD-2)。安定していたがD-1で同居後、肥満傾向がみられる。
ケージ変更に係る繁殖について
パターンAをパターンBのケージに移動させた結果、パターンBは産卵行動を開始、3か月間計20個の卵を床材の中に産卵。産卵目的ではない為採卵後有精卵を確認後元の戻す。ほとんどの卵が大きくへこみ自然ふ化は困難。内軽度なへこみの物を採卵しボールパイソンと同様の孵化機にいれ孵化試みるもへこみ復帰せず。産卵終了後口を開けた閉じることができなくなり、触診により顎の軟化認め代謝性骨疾患の可能性高い。病気発現後、カルシウム粉末を混ぜたレパシーをハンドリングしながら摂取を促し3日経過後、顎の開きは収まるも軟化は残る。10日で顎の硬化確認しその後問題なく生活している。産卵期に入ると顕著にカルシウムが不足する可能性があり、カルシウム含有量が低い人口フードやイエコオロギでは代謝性骨疾患を起こす可能性が幼体のカルシウムの必要度が高いことから予想される。餌として与えるものはカルシウム含有量が多いクロコオロギが最適ではないかと推測される。
パターンCとDの同居をパターンAとBの同居を同時に行うもDは妊娠せず、一切の産卵はなく、CとDは互いに攻撃等も確認されない。
パターンEは幼体である。幼体特有のカルシム欠損、ビタミン不足に対応する為、イエコオロギを常に摂取できる環境を整えるも、死前日活発に活動を確認できていたが、朝には動きが止まり硬直していた。イエコオロギの質の問題も考えられるが、元々含有量が低い為、含有量が高いクロコオロギが最適だった可能性が高い。また、クレステットゲッコーの幼体は他爬虫類より高いとされており韓国では安定した繁殖が行われている。
5. 結論(Conclusion)
クレステッドゲッコーは適切な温湿度管理と栄養管理がなされれば、初心者にも十分飼育可能な樹上性ヤモリである。高湿度環境が健康維持に貢献することが本研究により裏付けられた。本稿は、今後の飼育ガイドラインの科学的根拠として貢献しうると考えられる。